« ベルルッティ オルガIII | Main | 無くしたもの残ったもの »

April 08, 2005

追悼、石井真木さん。

ishii-maki 今日4月8日で作曲家石井真木さんが亡くなられて丸2年となります。2年前、信濃町の千日谷会堂で真木さんを送った日は4月とは思えないとても寒い日でした。今でもあの凍えるような風の中、哀しい気持ちで送ったあの日を忘れることはありません。寒かったなあ。そして哀しかったなあ。石井真木さんとは、音楽プロデューサーで「第3代NHK歌のお姉さん」でもある竹前文美子さんが主催する音楽会でお会いすることができました。豪快でアケスケで力強く、そして優しい。真木さんはそんな人でした。日本を代表する音楽家でありながら、気取ったところがなく、僕のような若輩者にも本当によくしてくれました。竹前さんには滅法弱く、そのお陰で僕はとても貴重な時間を真木さんと過ごすことができたのです。
 1994年冬、僕は仕事でベルリンに滞在することになりました。壁の崩壊からまだ3年。東ベルリンの街には至るところに弾痕が残り、街が未だ混乱の中にあることを物語っていました。ベルリンの冬はとてつもなく寒く、その冷気は頭痛を伴うほどでした。そんなベルリンで、僕の宿泊していたホテルまで真木さんは青のプジョー106で迎えに来てくれたのです。1969年からベルリンと東京の2拠点で活動されてきた真木さんにベルリンを連れて回ってもらうなんて、本当に有難い経験をしたものです。真木さん、そして竹前さん、ありがとうございます。東西ベルリンを隔てる湖“バンゼー”の公園で、真木さんはこんな話をしてくれました。旧東側から西側への亡命を希望する人々がこの湖を泳いで逃げ、その多くがここで命を落とした、と。70年代の日本ではまだ海外旅行すらままなりません。そんな時代から欧州で活躍してきた人には、この世界と日本がどう見えているのだろうか。僕にはその時想像もつきませんでしたが、「世界に対峙する個人の覚悟というか矜持」を教えてもらったと思っています。
 ベルリン市内に戻り真木さん行きつけのイタリアンレストランに連れて行ってもらいました。そこで聞かされた話がまた面白かった。「昔、僕と小澤征爾がここで食事しているときに、レナード・バーンスタインから電話が入って、小澤征爾はニューヨークフィルハーモニックの副指揮者になったんですよォ!」「僕はこの眼で見ていたんですよォ!」「カラヤンともここで食事したことがあるんですよォ!」と真木さんは大きな声で次々と話してくれるのですが、登場人物が凄すぎて。でも本当に熱く、優しく、ちょっと可愛らしく、素敵な方だったことを思い出します。
 彼の作品を初めて聴いたのは確か高校生のとき。東京都の委嘱作品、交響組曲『東京』の第二楽章が真木さんの作品でした。弦楽合奏で書かれた美しいアダージョ。当時マーラーが好きだった僕は、日本人によるこの楽曲に痺れ、石井真木の名前を深く記憶したのです。未来、その方とベルリンを周遊することになるなんて、思いもせずに。最後に真木さんの作品を聴いたのは日生劇場のオペラ「閉じられた舟」でした。この作品について僕はまだ文章で感想を書くことができません。ただ人間の生と死、どうしても向き合わなければならないこのことについて、真木さんはいつも向き合ってきたのだ、ということだけは分かりました。そして涙が出ました。
 真木さんはベルリンでも東京でも、ドイツの血を半分持つ金色の髪のお孫さんの写真をいつも自慢していました。僕にも妻にも。2年前、千日谷会堂の祭壇の横でその子を初めて見たとき、涙が溢れて止まりませんでした。真木さんは天国でも大声で話しているかな。今日はあの日と違って、暖かく、桜が満開です。

●ポートレイトはphoto by yoshi amadaです。
石井真木オフィシャルサイト

|

« ベルルッティ オルガIII | Main | 無くしたもの残ったもの »

Comments

You're so cool! I do not believe I've read through anything like that before. So great to discover another person with a few genuine thoughts on this subject. Really.. many thanks for starting this up. This web site is one thing that is required on the internet, someone with some originality!

Posted by: Jefferson | April 21, 2014 at 03:11 PM

I know this if off topic but I'm looking into starting my own blog and was wondering what all is required to get set up? I'm assuming having a blog like yours would cost a pretty penny? I'm not very internet savvy so I'm not 100% positive. Any tips or advice would be greatly appreciated. Many thanks

Posted by: quest bars | August 21, 2015 at 12:27 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/71476/3613357

Listed below are links to weblogs that reference 追悼、石井真木さん。:

» 「石井真木」でブログ検索してみました。 [日刊カタログ]
「 石井真木 」の検索結果で、「@AZABU-JUBAN 街と風と .. 」さんを紹介させていただきました。つながり系サイトです。 [Read More]

Tracked on May 08, 2005 at 11:10 AM

« ベルルッティ オルガIII | Main | 無くしたもの残ったもの »